アルツハイマー病

認知症全体の60~70%がアルツハイマー病なため認知症=物忘れのイメージが浸透していますが、物忘れが初期症状として出現する代表的な病気がこのアルツハイマー病になります。「知り合いや芸能人に名前が出てこない」「もの名前が出てこないのでアレ、コレというのが増えてきた」といって物忘れ外来を受診する人が多いため、アルツハイマー病をまとめてみました。

初期症状

  • 近時記憶障害(短期記憶の障害)
  • 失見当識(現在の場所、時間、自分のまわりの環境が分からなくなる)
  • 注意力、集中力、判断能力の低下(自動車運転で事故の原因になります)
  • 実行機能の障害(ものごとの順序が分からなくなる。複雑な工程の料理ができなくなる)

ここでいう短期記憶の障害というのはただ単に「人や物の名前を思い出せないことが多い」ということを指している訳ではありません。数十秒~数分間の出来事をごっそり忘れてしまうということを意味しています。例えば「今朝の朝ごはんの内容」ではなく「朝ごはんを食べたという一連の行動」がごっそり抜けるので、食べたはずなのにもう一度、ごはんを要求したりします。「自分が相手に伝えたという一連の話が抜けて、同じ話をまた最初から伝えてしまう。」「約束した内容どころか、約束したというエピソードを覚えてない」というのは短期記憶の障害になります。そのためただ単に「人や物の名前が出てこない」というのは加齢による物忘れのことがほとんどで、アルツハイマー病で認められる物忘れとはタイプが異なります。

中期症状

  • 失行(服を上下逆に着用したり、パジャマの上から普段着を着用したり、鍵穴に鍵でないものを入れる)
  • 失認(ある事象を勘違いして、認知してしまい被害的になったりする)
  • 失語(言葉がすらすら話せない、歯ブラシなどものを見て何に使うか分かっても名前が出てこない)
  • 尿失禁

末期症状

  • 寝たきり
  • 食事摂取量の減少

アルツハイマー病は初期から運動障害が認められる認知症ではありませんが、進行していくにつれて最終的には座っていても体のバランスを保つことが難しくなり、寝たきりになってしまいます。また食事の自力摂取は中期以降~末期にかけて難しくなってきて、介護者の手で口まで運んであげないと食事摂取ができなくなってきます。場合によっては口まで、食物を入れてあげても嚥下せず、口の中にため込んで吐き出してしまうことがあります。

進行のスピードには個人差がありますが、初期症状の物忘れが出始めたころから末期に至るまではだいたい10年以上かかりゆっくりと進行していくのが特徴です。

診断

確実なアルツハイマー病は以下のどちらかを満たしたときに診断される。そうでなければアルツハイマー病疑いと診断する。

(1)家族歴または遺伝子検査からアルツハイマー病の原因となる遺伝子変異の証拠がある。

(2)以下の3つのすべてが存在している。
(a)記憶、学習、少なくとも1つの他の認知領域の低下の証拠が明らかである。
(b)着実に進行性で緩徐な認知機能低下があって、安定状態が続くことはない。
(c)混合性の病因の証拠がない(他の認知症疾患ではない)

原因

脳のゴミと表現されるアミロイドβやタウ蛋白といった異常な蛋白質が脳に沈着して、脳細胞を破壊してしまうのが原因ではないかと言われています。海馬は外からの情報を一時的に保存しておくところで、必要な情報は大脳皮質へ送ることで長期記憶として保存されるのですが、アルツハイマー病になると初期から海馬で脳細胞が破壊されるため、短期記憶の障害を生じた結果、物忘れの症状が認められるようになります。

アミロイドβの代謝・排泄

アルツハイマー病の原因の一つとされているアミドイドβは体の中で代謝されて排泄されているのですが、米国の研究では脳内にアミロイドβを蓄積させないために大切なのは次の3つであり、特に睡眠が一番大切とされています。

  1. 睡眠

    アミロイドβの代謝・排泄は昼間でも行われていますが、アミロイドβを含む脳内の老廃物は夜寝ている間を中心に代謝・排泄されています。睡眠の途中で何回も起きてしまう人、寝付くまでにたくさんの時間がかかり睡眠時間が短くなってしまうような睡眠の質が低下している人は、良質な睡眠をとっている人の5倍アルツハイマー病になりやすいというデータがあります。また30分以上の昼寝は夜中に睡眠しにくくなって、夜中の睡眠の質を落としてしまいますが、国立精神神経医療センターの研究では30分の昼寝はアルツハイマー病の発症リスクを5分の1にできると報告しています。

    良質な睡眠をとれてない場合はこちらの記事を参考ください。
    快眠枕の記事へ  睡眠改善サプリの記事へ

  2. 食事

    食事のあとに分泌されるインスリンは役割を終えるとインスリン分解酵素によって分解されるのですが、このインスリン分解酵素が脳内のアミロイドβを代謝する働きがあるとわかりました。インスリンの量が増えすぎるとインスリン分解酵素がインスリンを分解するという仕事に手がかかり、アミロイドβの代謝にまで十分に手がまわらず、アミロイドβが残ってしまうというのです。インスリンがドバっと急激に出ないために食事をする順番をサラダ、野菜などの副菜に5分~10分かける➡そのあとに、ごはん、パン、パスタなどのメインを食べましょう。また、魚に含まれるDHAやEPAは脳を活性化させて、老化を防ぐ働きがあるのでサバやマグロを食べることは良いとされています。カレーのスパイスであるウコンがアルツハイマー病の予防に効果的だという研究者もいて、カレーを毎日食べているインド人はアルツハイマー病の発症率が低くなっていて、米国人の4分の1しかないという報告があります。

  3. 運動

    軽い運動をすると脳内のアミロイドβが減少することが分かっています。運動するとアセチルコリンが分泌されて、そのアセチルコリンが脳の海馬で神経細胞の新生促進に関与しているというのです。ここでいう軽い運動というのは早めのウォーキングや軽いジョギングを週に2回程度で良いとされています。ちなみにアルツハイマー病に保険適応のあるドネペジルなどのお薬はこのアセチルコリンを分解する酵素を阻害することで、脳内のアセチルコリン濃度を上昇させて認知機能を改善させるというものです

治療

薬物療法としては日本で保険適応となっている代表的なものは内服薬のドネペジル、メマンチン、ガランタミンと貼り薬のリバスチグミンがあります。どれもアルツハイマー病の進行を止めるものではありませんが、認知機能を改善させることができる薬剤として証明されており、服用することで自宅で生活できる期間を長くすることが期待できるようになっています。しかし薬を使用しても緩徐には進行しますので、中期以降にさしかかって家族のみで自宅介護することが困難となった場合には、介護保険を利用してデイサービス、ショートステイなどの介護サービスを利用することが大切です。