がんの早期発見に必要な検査は?がん検診で腫瘍マーカー測定はしない方が良い?
がん罹患率
2013年の国立がん研究センターのがん登録・統計によると生涯のがん罹患率は男性は62%、女性は46%と公表されており、2人に1人は生きているうちに一度は何かしらのがんになる計算となります。男女ともに50歳代くらいから増加し、高齢になるほど高くなります。
がん部位
男性
40歳以上で消化器系のがん(胃、大腸、肝臓)の罹患が多く占められ、70歳以上になると消化器系のがんの割合は減少して前立腺がんと肺がんの割合が増加します。
女性
40歳代では乳がん、子宮がん、卵巣がんの罹患が多く占めますが、高齢になるほどその割合は減少して消化器系のがん(胃、大腸、肝臓)と肺がんの割合が増加します。
がん死亡人数
2015年にがんで死亡した人は370,346人(男性219,508人 女性150,838人)にのぼります。
2015年の死亡数が多い部位
男性
- 肺 2.胃 3.大腸 4.肝臓 5.膵臓
女性
- 大腸 2.肺 3.胃 4.膵臓 5.乳房
がん検診に向いている部位
がん検診の対象は健康な人のため、がんが見つかる確率は高いとはいえません。検診を行うのに向いているがんは、罹患率が高いがんであること、また死亡率が高いがんであることです。
具体的には、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんです。
早期発見、早期治療で長生き
早期発見することで手術による摘出、摘出が難しいタイプのがんの場合は放射線療法や化学療法によって生存率が飛躍的に伸びてきました。そこでがんを早期発見するための検査を勉強しておきましょう。
がん発見のための検査
胃がん検診
男女ともに、50歳以上は2年に1回胃がん検診を受けることを推奨されています。
胃部エックス線検査(バリウム)+胃内視鏡検査(胃部エックス線検査で異常がなくとも2~3年に1回行うことを推奨)
大腸がん検診
男女ともに、40歳以上は年に1回、大腸がん検診を受けることを推奨されています。
便潜血検査
要精密検査の場合➡全大腸内視鏡検査や注腸エックス線検査が必要となります。
肺がん検診
男女ともに、40歳以上は年に1回、肺がん検診を受けることを推奨されています。
胸部エックス線検査+喀痰細胞診を併用することで感度は70%になります。
要精密検査の場合➡胸部CT検査や気管支鏡検査が必要となります。
乳がん検診
40歳以上の女性は、2年に1回、乳がん検診を受けることを推奨されています。
乳房エックス線検査(マンモグラフィ)感度は80~90%です。
要精密検査の場合➡マンモグラフィ(多方向からの撮影)や乳房超音波検査、乳房MRI検査、穿刺吸引細胞診、針生検が必要となります。
子宮頸がん検診
20歳以上の女性は、2年に1回、子宮頸がん検診を受けることを推奨されています。
細胞診 感度は50~80%になります。
要精密検査の場合➡コルポスコープ検査や組織診が必要となります。
腫瘍マーカー
腫瘍マーカーは今まで下記の目的で使用されてきました。
①がん検診 ②早期がん手術後の経過観察 ③進行がんの治療効果判定
②と③はがんの診断がついたあとに治療後のがんの再発や行っている治療(放射線療法や化学療法)ががんに対して効いているのかの判定に使用されます。これらに関しては臨床的な意義は絶対ではないですが、ある程度確立されています。
①に関してですが結論から申しますとがんの早期発見の目的で腫瘍マーカーは測定しない方が良いです。
がん検診で腫瘍マーカーを測定しない方がいい理由
- CEA(胆道がん、大腸がん、胃がんなどの消化器がんを中心とした腫瘍マーカー)
- PSA(前立腺がん腫瘍マーカー)
- AFP(肝臓がんを中心とした腫瘍マーカー)
- CA19-9(胃がん、膵臓がん、大腸がん、胆道がんなどの腫瘍マーカー)
- CA125(卵巣がん腫瘍マーカー)
腫瘍マーカーは血液検査によってがんの存在を推測する検査ですが、良性の腫瘍や慢性肝障害、腎障害、呼吸器の慢性炎症、高血糖などの病気でも反応することがあり、補助的に用いるべき検査で早期がんにはほとんど反応しません。
PSA、CA125、AFPは早期がんで数値が上昇することがありますので、がん検診に有用な可能性はありますが、それでも多く偽陽性(がんではないのに陽性になること)が生じることから、過剰な検査が必要になるのでがん検診で測定するには意見が分かれております。腫瘍マーカーを測定して数値が高かったら不安になりますよね?その後全身CT、MRI、超音波検査、内視鏡検査、PET検査をしたい人もいると思います。それらの精密検査で「何も見つからなかったので安心してください」と言われても安心できない人がいます。そうなるなら最初からがん検診としての腫瘍マーカーは測定しない方がいいということです。
有望なPSA、CA125、AFPですらそういう状況なので、CEA、CA19-9などはなおさら、いらない心配に振り回される可能性があります。
PET検査
がん細胞は正常細胞に比べて3~8倍のブドウ糖を取り込むという性質を利用した検査方法で、ブドウ糖に近い検査薬(FDG)を点滴で投与することでFDGが多く集まるところがわかり、がんの早期発見のてがかりとなります。今までのレントゲン、CT、MRIでは組織の形状の変化から癌の存在を見つけていましたが、PET検査では組織の形状の変化が起こる前の細胞の性質からがんを見つけていくのでレントゲン、CT、MRIより早期発見を期待できるのです。
メリット
- レントゲン、CT、MRIでは見過ごしていた小さながんの早期発見が可能となりました。
- 一度に全身を撮影して調べられるので、がん転移の判定に利用することに役立ちます。
- 健康診断でPET検査を受ける場合、健診センターや施設ごとに費用を設定できる自由診療となっていますが他の検査、画像診断により病期診断、転移・再発の診断が確定できない方には保険診療が適用できます。
デメリット
がん細胞は正常細胞に比べて3~8倍のブドウ糖を取り込むという性質を利用した検査方法という特性上、苦手な臓器の部位、がんの種類が存在します。それらの発見、判定はできませんので、他の検査方法が必要となります。
- 糖を必要としないがん細胞
- 炎症部位(FDGが集まってしまう)
- もともと多くの糖が必要な臓器部位(脳・心臓)
- FDG排出経路(腎臓、尿道、膀胱)
- 糖尿病の人
- 胃や食道の早期のがん(胃や大腸などの消化管に出来るがんは早期の段階では3センチの大きさになっても多くの栄養を必要としないため、内視鏡なら容易に見つかるがんでも見落としてしまうことがある。)
また、PET検査の保険適用外(自由診療)の方は1回のPET検査で10万円前後かかるためがん検診として使用するには非常に高額となります。それに加えてCT、MRIもやるとなると更に高額となります。
ALAを活用した尿検査
ALAというアミノ酸を摂取すると正常な細胞ではヘムというエネルギー産生タンパクとなり利用されますが、がん細胞ではポルフィリンという代謝産物が増えていきます。このポルフィリンが増えると尿中にたくさん排泄されるようになります。
ALAは既に臨床でも実用されていて、脳腫瘍や膀胱腫瘍の術前にALAを飲むとがん細胞にポルフィリン代謝物が蓄積され、がん細胞が赤く光ります。このようなALAの特性を利用してがんの取り残しをなくそうとしています。
がん予防メディカルクラブまも~る
プリベントメディカル株式会社の提供するがん予防メディカルクラブでは
- 就寝前に健康食品のアミノ酸(ALA)カプセルを飲みます。
- 翌朝採尿し測定・解析機関に送付します。
- 医療機関から報告書が届きます
という工程で自宅でカンタン検査が可能になっています。会員制になっていて「1年に1回検査のあるシルバープラン」と「1年に2回検査のあるゴールドプラン」があり、年会費は5万円~7万円くらいといったところです。がん検診で異常なしと言われた人がこの検査によってC判定やD判定となり、PET検査や内視鏡などの精密検査を行ってがんが発見されたという実績があるそうです。気になるところは「C判定、D判定の報告書が送られてきた人のうちどれほどの人が精密検査したけどがんを見つからなかったのか」というデータが見当たらないところです。偽陽性(健康なのに検査で陽性に出てしまう)が高い検査だと、いらぬ不安、過剰な検査が必要になってしまいます。
消化器がんマイクロアレイ血液検査
公式HPより引用
原理
血液中の白血球は、異物の存在や病気の発症から体を守るために 「免疫」という防御システムを持っています。その防御システムは細胞 の中にある特定のRNAの量を変化させることによって行われています。すなわち血液中のRNAの量を測定することにより、異物の存在や病気 の発症を知ることができます。
今回のマイクロアレイ血液検査による消 化器癌の有無判定解析は胃癌・大腸癌・ 膵臓癌・胆道癌の患者を対象として、健康 な人との比較による臨床試験を重ねてきました。その結果、健康なのかそうでないの かを判定できるようになりました。 従来の腫瘍マーカーではその陽性率が 概ね20%程度と感度に課題がありました が、マイクロアレイ血液検査による消化器 癌の有無判定解析では体の反応を直接見 ているため、90%以上の感度を示し、早期の癌でも陽性反応を示します。RNAの量の測定にはマイクロアレイと呼 ばれる、どのRNAがどのくらいの量あるのかを調べるために考案されたガラス器具を用います。血液中のRNAの種類や量を 測定することによって、どんな発現パター ンなのかを判別することができます。
マイクロアレイ血液検査の開発
この検査方法については、金沢大学 医薬保健研究域 医学系 恒常性制御学講座 金子周一教授らの研究グループをはじめと した消化器専門医の先生方が癌患者様の血液と健康な方の血液 を比較解析して得られた研究成果に基づき開発されています。
これらの研究成果から消化器の癌を9割の高い感度で発見することが可能となりました。元となった科学論文は (Biochemical and Biophysical Research Communications誌*) に掲載されました。
※この検査において、検査項目 にある消化器以外の癌や、炎症 やポリープなどの前癌状態と考 えられる場合でも癌症例に類似 の発現パターンを示すことが報 告されております。検査の流れ
マイクロアレイ血液検査は、医療機関で採血し、検査することが できます。血液からRNAを抽出し、解析を行う工程は株式会社 キュービクス(金沢市)に委託し行っております。
1. G-TAC提携医療機関において5ccの採血を行う 5ccの血液を2本の採血管に分注する
2. 血液からRNAの抽出を行う
3. RNAと試薬を反応させ、RNAの増幅と蛍光色素の付加を行う
4. マイクロアレイ上で蛍光色素を付加したRNAを反応させる
5. スキャナーで蛍光強度を読み取る
6. 専用ソフトを用いたパターン判別の実施
7. 検査結果の報
マイクロアレイ血液検査で陽性反応が出たあとの専門医による精密検査の結果、悪性腫瘍が発見されなかった場合、検査日から2年間、最大半年に1回、通常の半額でマイクロアレイ血液検査を受けていただけるプログラムも準備されています。(2017年10月現時点)
対象者:消化器がんマイクロアレイ血液検査を対象期間内に受検し、陽性反応が出たあと専門医による精密検査を受けた結果、悪性腫瘍が発見されなかった方
まとめ
- 検診を行うのに向いているがんは、「罹患率が高いがんであること」と「死亡率が高いがんであること」。具体的には、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がん。
- 胃がん検診=胃部エックス線検査+胃内視鏡検査
- 大腸がん検診=便潜血検査
- 肺がん検診=胸部エックス線検査+喀痰細胞診
- 乳がん検診=乳房エックス線検査(マンモグラフィ)
- 子宮頸がん=細胞診
- 腫瘍マーカーはがんの診断後の術後の予後、治療の効果判定には有用だけど、がんの早期発見にはオススメできない。
- 上記の検査だけでは不安な方は自分の経済状況と相談してPET検査、ALA尿検査、消化器癌マイクロアレイ血液検査を組み合わせる。